云う。
 私は、道理で、と思った。
 レポは中で頼まれたと云って、不良が持ってきた。倉田工業から電車路に出ると、その一帯は「色街《いろまち》」になっていた。電車路を挟んで両側の小道には円窓を持った待合が並んでいる。夜になると夜店が立って、にぎわった。そしてその辺一帯を「何々」組の何々というようなグレ[#「グレ」に傍点]《不良》が横行していた。ところが「フウテンのゴロ」というのが脅迫罪でN署に引っ張られたとき、檻房《かんぼう》で偶然太田と一緒になった。それでフウテンのゴロが出て来るときに、彼は私たちの知っているTのところへレポを頼んだのである。
 それによると、私が非常に追及されていること、ロイド眼鏡《めがね》をかけていることさえも知られていること、それからあんな奴は少し金さえかければ直ぐ捕まえる事が出来ると云っているから充分に注意して欲しいとあった。それを聞いて私は、
「反対に、太田が何もかもしゃべったから、俺が追及されているんだ。」
と云った。
「そうだよ、君がロイドの眼鏡をかけているかいないかは、パイの奴が君だと分って君と顔をつき合わせない以上分らないことじゃないか――」
 と、須
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