、会社がワザとにそうさせているのであって、中には「合い見、互い見」で、仲間になっているものさえある。これらはホンの一二の例でしかない。だが、若《も》しも細胞がそれらの自然発生的なものをモッと大きなものに(組織に)するために努力し且《か》つその中で[#「その中で」に傍点](自分たち四五人の中でなしに)働くことを知ったら、近々の六百人[#「六百人」に傍点]もの首切りに際して工場全体を動かすことは決して不可能なことではないのである。
 殊に倉田工業が毒瓦斯《ガス》のマスクやパラシュートや飛行船の側《がわ》などを作る軍需品工場なので、戦争の時期に於《おい》てはそこに於ける組織の重要なことは云う迄もないのだ。私達は戦争が始まってから、軍需品工場(それは重《おも》に金属と化学である)と交通産業(それは軍隊と軍器の輸送をする)に組織の重心を置いて、仕事を進めて来た。そして倉田工業には私や須山、太田、伊藤などが入り込んだわけだった。たゞ、この場合私達はみんな臨時工なので、モウ半月もしないうちに首になる。私達はその間に少しでも組織の根を作って置かなければならない。そのためには本工を獲得することが必要だっ
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