ン、昨日と同じ処《ところ》を繰りかえすことになってるんだって。」
「何時だ。」
「七時――それに喫茶店が七時二十分。で俺はとにかくその様子が心配だから、八時半に上田と会うことにして置いた。」
私は今晩の自分の時間を数えてみて、
「じゃ、オレと九時会ってくれ。」
私達はそこで場所を決めて別れた。別れ際に須山は「ヒゲ[#「ヒゲ」に傍点]がやられたら、俺も自首[#「自首」に傍点]して出るよ!」と云った。それは勿論《もちろん》冗談だったが、妙に実感があった。私は「馬鹿」と云った。が彼のそう云った気持ちは自分にもヨク分った。――ヒゲ[#「ヒゲ」に傍点]はそれほど私達の仲間では信頼され、力とされていたのである。私達にとっては謂《い》わば燈台みたいな奴だと云っても、それは少しも大げさな云い方ではなかった。事実ヒゲ[#「ヒゲ」に傍点]がいなくなったとすれば、第一次の日からして私達は仕事をドウやって行けばいゝか全く心細かった。勿論《もちろん》そうなればなったで、やって行けるものではあるが。――私は歩きながら、彼が捕《つか》まらないでいてくれゝばいゝと心から思った。
私は途中小さいお菓子屋に寄って
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