二人で同じ場所を歩いて「此処《ここ》から此処まで」と決め、めずらしいことにはヒゲは更に「万一のことがあったら困る」というので、通りがかりに自分から[#「自分から」に傍点]安全そうな喫茶店を決め、街頭で会えなかったら二十分後に其処《そこ》にしようと云い、しかも別れる時お互の時計を合わせたそうである。「ヒゲ[#「ヒゲ」に傍点]」そう呼ばれているこの同志は私達の一番上のポストにいる重要なキャップだった。今\迄《まで》ほゞ千回の連絡をとったうち、(それが全部街頭ばかりだったが)自分から遅れたのはたった二回という同志だった。我々のような仕事をしている以上それは当然のことではあるが、そういう男はそんなにザラには居なかった。しかもその二回というのが、一度は両方に思い違いがあったからで、時間はやっぱり正確に出掛けて行っているのである。モウ一度はその日の午後になってから時計に故障があったことを知らなかったからであった。他のものならば一度位来ないとしても、それ程ではなかったが、ヒゲ[#「ヒゲ」に傍点]が来ない、予備にまで来ないという事は私達には全《まっ》たく信ぜられなかった。
「今日はどうなんだ?」
「ウ
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