ゞ「変ったことがありませんか」位にとゞめる。――今度の下宿はその中間をゆく家だった。おばさんはもと待合をしていたことがあるとか云って、誰かの妾《めかけ》をしているらしかった。
須山や伊藤から荷物を一通り集めて、ようやく落付くと私はホッとした。たゞ下の室に同宿の人がいるのが欠点だった。それで、第一にその人がどんな人か知る必要があった。私は便所へ降りて行った。同宿の人の室の障子が開いて居り、その人はいなかった。私は何より本箱[#「本箱」に傍点]に眼をやった。これは私が新しい下宿に行って、同宿のある時に取る第一の手段だった。本箱を見ると、その人が一体どういう人か直《す》ぐ見当がつくからである。――本箱には極く当り前の本ばかりが並んでいた。何処《どこ》かの学校の先生らしく、地理とか、歴史の本が多かった。ところが、机の上に「日本文学全集」が載っていた。フト見ると、「片岡鉄兵」や「葉山嘉樹《よしき》」などの巻頭の写真のところが展《ひろ》げられたまゝになっていた。然しその種の本はそれ一冊だけで、その他には持っていないらしかった。
僕たちの仲間で、折角移ってきたところが、その下宿の主人が警察に勤め
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