だいと訊くと、みんながそう云っていると云った。その頃「三日間」というのが何故か一つのきまりのようになっていた。私はその時引き続き冗談を云い合ったが、フト太田の何処かに弱さを感じたことを覚えている。太田が捕まったと聞いたとき、私の頭にきた第一のことはこの事だった。
 私の知っている或《あ》る同志は、自分と同居していたものが捕ったにも拘らず、平気でそのアジトに寝起していた。私や他のものは直ぐ引き移らなければ駄目だと云った。するとその同志は奇妙な顔をした。案に違わず五日目にアジトを襲われた。その時同志は窓から飛んだ。飛びは飛んだが足を挫《くじ》いてしまった。彼は途中逃げられないように真裸にされて連れて行かれた。彼が警察の留置場に入って、前にやられた仲間を一眼見ると、「馬鹿野郎! だらしのない奴だ!」と怒鳴りつけた。ところがその仲間は、逆に自分がやられているのにのんべんだらりと逃げもしない「だらしのない奴」だと思い、相手にそう云おうと思っていたというのである。後でその同志が出てきたとき、私たちは、だから云わない事じゃ無かったんだ、分っていて捕まるなんて統制上の問題だぞと云った。すると彼は、あい
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