つ[#「あいつ」に傍点]《前に捕まった仲間》がしゃべったからだ、一体一言でも彼奴等《きゃつら》の前でしゃべるなんて「君、統制上の問題だぜ!」と云いかえした。事実その同志は取調べに対しては一言もしゃべらなかった。その同志にとってはしゃべるという事は始めから考え得られないことだったし従って[#「従って」に傍点]他のものもしゃべるなどとは考えもしなかったので、「のんべんだらり」とアジトにいたのだ。私はこの時誰よりも一番痛いところをつかれたと感じた。アジトを逃げろと云ったのは、自分が[#「自分が」に傍点]若《も》し捕まったら三日か四日目にアジトを吐くという、敗北主義を自認していることになる。だが、これはおよそボルシェヴィキとは無縁な態度である。これはABCだ。その後私たちはその同志の態度を尺度とする規約を自分自身に義務づけることにした。が今あの頼りない太田を前にしては、私はこの良き意味での「のんべんだらり」をアジトで極め込んでいるわけには行かぬ。私は即刻下宿を引き移らなければならなかった。
 それにしても、私は矢張りアジトは誰にも知らせない方がよかった。嘗《か》つて、私たちの優れた同志が「七人
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