ジョワのお嬢さんのようにネチネチと形式張ったものではなくて、実に直接且つ具体的[#「直接且つ具体的」に傍点]なので困る!」
そんなことを云った。
「直接且つ具体的」というのが可笑《おか》しいので、私たちは笑った……。
二
一度ハッキリと「党」の署名の入ったビラが撒《ま》かれてから、倉田工業では朝夕の出入が急に厳重になった。時期が時期だし、製造しているものが製造しているものなので、会社も狼狽《ろうばい》し始めたのである。私の横で働いている女工が朝キャッといって駈《か》け込んできたことがある。それは工場の出入の横に何時でも薄暗い倉庫の口が開いているが、女が何気なく其処《そこ》を通ると、隅《すみ》の方で黒い着物を頭からかぶった「もの」がムクムクと動き出したというのである、ところが、後でそれが守衛であることが分った。これなどからでも、彼奴等が如何《いか》にアワを食っているか分る。
戦争が始まって若い工場の労働者がドン/\出征して行った。そして他方では軍需品製造の仕事が急激に高まった。このギャップを埋めるために、どの工場でも多量な労働者の雇入を始めなければならなかった。今迄《いままで》
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