毎日のように同志と会っている。が、その場合私たちは喫茶店でも成るべく小さい声で、無駄《むだ》を省いて用事だけを話す。それが終れば直ぐその場所を出て、成るべく早く別れてしまう。これと同じ状態が三百六十五日繰りかえされるわけである。勿論私はそういう日常の生活形態に従って、今迄の自分の生活の型を清算し、今ではそれに慣れている。然し留置場に永くいると、たまらなく「甘《あま》いもの」が食べたくなり、時にはそれが発作的な病気のように来ることがあるのと同様に、私の場合ではその生活の一面性に対する反作用が仲間の顔をみると時には雑談をしようという形をかりて現われるのであるらしい。だが、この気持は普通の生活をしている太田には、何か別な極めて呑気《のんき》な私の性格位にしか映っていないし、時々ビーヤホールなどで大気焔《きえん》を挙げられる彼には、私の気持に立ち入り得る筈がなく、時には残酷にも(!)雑談もせずに帰って行くことがあるのである。
太田は「雑談」をすると云って、工場の色々な女工さんの品さだめをやって帰って行った。彼は何時の間にか、沢山の女工のことを知っているのに驚いた。
「女工の惚《ほ》れ方はブル
前へ
次へ
全142ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング