ジトを誰にも知らせないことにしていたが、上《うえ》の人との諒解《りょうかい》のもとに一人だけに(太田に)知らせてあった。それは倉田工業で仕事をするためには、どうしても専任のものを一人きめて、それとは始終会う必要があった。外で会っているのでは即刻のことには間に合わなかったし、又充分なことが(色々な問題について納得が行くようには)出来なかった。
太田は明日入れるビラについて来ていた。それで私はさっきSと打ち合わせてきたことを云い、明朝七時T駅の省線プラットフォームに行って貰うことにした。そこへSがやって来て、ビラを手渡すことになっていた。
急ぎの用事を済ましてから、私達は少し雑談をした。「雑談でもしようか」ニコ/\そう云い出すと、「得意のやつ[#「やつ」に傍点]が始まったな!」と太田が笑った。用事を片付けてしまうと、私は殆《ほと》んどきまって「雑談をしようか」と、それも如何《いか》にも楽しそうに云い出すので、今ではそれは私の得意の奴という事になっていた。ところが、私は此頃になって、自分がどうして「雑談」をしたがるのか、その理由《わけ》に気付いた。――私たちは仕事のことでは殆《ほと》んど
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