たのか見当がつかなくなってしまった。見ると誰でも、かれでもビラを撒いているのだ。
 仕方のなくなった守衛は、屋上からの狭い出口を厳《かた》めて、そこから一人ずつ通して首実検をしようとしたが、そんなことをしていたら一時間経っても仕事が出来ない。皆は、太いコンクリートの煙突から就業のボーが鳴り出すと、腕を組んでその狭い入口めがけて「ワッショ、ワッショ!」と押しかけてしまった。そうなれば、守衛には最早どうにも手がつかなかった。――伊藤が見ていると、須山はその人ごみの中を糞《くそ》落付きに落付いて、「悠然《ゆうぜん》と」降りて行ったそうである。
 あとでおやじが「誰が撒いたか知らないか?」と一人一人訊《き》きまわったが、確かに須山が撒いたことを知っているものが居るにも拘《かかわ》らず、誰も云うものがいなかった。青年団の馬鹿どもが、口惜しがって、プンプンした。その日、須山のいる第二工場と、伊藤たちのパラシュートでは気勢が挙がって、代表を選んで他の工場とも交渉し、会社に抗議しようというところまで来た。
 帰りに須山と伊藤が一緒になると、彼は「こういう時は、俺だちだって泣いてもいゝんだろうな!」と云
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