って、無暗に帽子をかぶり直したり、顔をせわしくこすったりした。
 途中、彼は何べんも何べんも、「こうまでとは思わなかった!」「こうまでとは思わなかった! 大衆の支持って、恐ろしいもんだ!」と、繰りかえしていた。
 私はビラを撒いた日の様子をきくために、その日おそく伊藤と連絡をとっておいた。私は全く須山が一緒にやって来ようとは考えてもいなかったのだ。私は伊藤の後から入ってきた須山を、全く二三度見直した位である。それが紛れもなく須山であることが分ったとき、私は思わず立ち上がった。
 私はそこで詳しいことを聞いたのである。私も興奮し、須山が伊藤に云ったという云い方を真似して、「こういう時は俺だちだってビールの一杯位は飲んだっていゝだろう!」と、三人でキリンを一本飲むことにした。
 須山は躁《はしゃ》いで、何時《いつ》もの茶目を出した。
「あのビラ少し匂いがしていたぞ!」
と、伊藤にそんなことを云った。私は、「こら!」と云《い》って、須山の肩をつかんで、笑った。
 然《しか》し、決定的な闘争はむしろ明日のきん坤《こん》[#「きん坤」に傍点]一番にあるので、私たちはそれに対する準備を更に練った。
前へ 次へ
全142ページ中139ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング