て行くと、後れ毛を掻《か》き上げるようにして、下からチラと見た。私は「この前は!」と云った。彼女はそれには別に答えなかった。工場のオルグをやると、どうしても白粉ッ気が多くなるが、細胞の会合のときに伊藤は今まで一度も白粉気のある顔をしてきたことがなかった、又その必要もなかったので。フト見ると、ところが伊藤は今迄になく綺麗《きれい》な顔をしていた。
「同志伊藤は今男の本工を一人オルグしてのお帰りなんで――」
 と、須山は又すぐ茶目て、伊藤の顔を指さした。
 そんな時は何時もの伊藤で、黙っていた。が、彼女は何故《なぜ》か私の顔をその時見た。
 会が始まってから、私は何時もやることになっている須山の報告に特に注意した。彼はこの前の細胞会議の決定にもとづいて、職場々々に集会を持たせるように手配したが、工場の様子を見ていると、ここ二三日が決定的瞬間らしく、そのためには今至急何んとか[#「何んとか」に傍点]しなければならないと云った。
 伊藤はそれにつけ加えて、前に私に報告してある馘首《かくしゅ》がこの三十一日と見せかけて実は二十九日にやるらしいこと、パラシュートやマスクの引受高から胸算してみると、
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