んで、それを今度は一段と高いところから見ることを忘れていたのだ。
「だから、つまりみんなの自然発生的な気持に我々までが随《つ》いて歩いてるわけだ。日常の不満から帝国主義戦争の本質をハッキリさせるためには、特別の、計画的な、それになかなか専門的な努力が要るんだ――そいつを分らせることが必要なわけだ……。」
ビラは今迄に沢山出されてきた公式的な抽象的な戦争反対のビラの持っている欠点を埋めようとして、今度は逆に問題を経済的な要求の限度にとゞめてしまう誤りを犯していると云った。得てそういう右翼的偏向は、大衆追随をしているので一応評判が良いものだ。従って「評判が良い」という事も、矢張り慎重に考察してみる必要がある、私達は歩きながら、そういう事について話した。
「気をつけるというので、今度は木と竹を継いだようになったら何んにもならない。逆戻りだ! 今迄僕等は眼隠しされた馬みたいに、もの[#「もの」に傍点]事の片面、片面しか見て来なかったんだ。」
私たちはしばらく歩いてから、喫茶店に入った。
「ラヴ・レターをあげるよ。」
私はそう云って原稿をテーブルの下の棚に置いた。――Sはクン、クンと鼻歌を
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