出ない。すると六時迄仕事をするために、かえって一日の貰《もら》い分が減るという状態なのである。それは賃銀を下げるぞと云わずに、実際では賃銀を下げているやり方なので、みんなは「人を馬鹿にしてる」と云って、憤慨し出した。伊藤のいるパラシュートでは、六時まで居残りのときは「弁当代を出して貰《もら》わなければ、どうもならん」と、云っている。
 そればかりでなく、最近では働く時間が十時間なら十時間と云っても、もとゝはすっかりちがっていた。本工に組み入れられるかも知れないというので、みんなの働きは見違えるほど拍車がかけられていた。前には仕事をしながら隣りと話も出来たし、キヌちゃん式に前帯に手鏡を吊《つる》して、時々\覗《のぞ》きこむことが出来たが、今ではポタ/\落ちる汗さえ袖《そで》で拭《ぬぐ》う暇がない。パラシュートなどは電気アイロンを使うので、汗でぐッしょりになる。拡げたパラシュートに汗がポタ/\落ちた。――出来高からみると、会社は以前の四〇%以上も儲《もう》けていることが分った。それに拘《かかわ》らずもと通りの賃銀しか払わないのである。それは実際に仕事をしている職工たちにはよく分った。――が、みんなは自分の生活のことになると、「戦争」は戦争、「仕事」は仕事と分けて考えていた。仕事の上にます/\のしかぶさってくる苛酷《かこく》さというものが、みんな戦争から来ているということは知らなかった。だから、その結び付きを知らせてやりさえすれば、清川や青年団などの理窟《りくつ》をみんなは本能で見破ってしまう。
 以上のことから、細胞として、どこに新しい闘争の力点が置かれなければならないかゞハッキリした。清川や熱田などが臨時工のなかに持っている影響を切り離すために、みんなで「労働強化反対」とか「賃銀値上げ」とか「待遇改善」などを僚友会に持ち込ませる。そうすれば彼等は、色々な理窟を並べながら、結局その闘争の先頭に立つどころか、みんなを円めこんでしまう。それを早速つかんでみんなの前で、彼奴等味方ではないということをハッキリさせる。更に私たちは細胞会議の決議として、「マスク」の編輯《へんしゅう》で、工場内のファシスト、社会ファシストのバクロを新しく執拗《しつよう》に取り上げてゆくことにきめた。
 書きちらしの紙片《かみ》を一つ一つマッチで焼きながら、
「こう見てくると、向うかこッちかという決戦
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