が段々近くなっていることが分るな!」
と須山が云った。
「そうだよ、彼奴等に勝つためには科学的に正しい方針と、そいつをどんな事があっても最後まで貫徹するという決意性があるだけだ。ファシスト連が動き出したとすれば、俺たち生命がけだぜ!」
 私がそう云うと。
「我々にとって、工場は城塞《じょうさい》でなくて、これア戦場だ!」
と、須山は笑った。
「それは誰からの切抜《スクラップ》だ?」
「オレ自身のさ!」
 ――その後「地方のオル[#「オル」に傍点]」(党地方委員会の組織部会)に出ると、官営のN軍器工場ではピストルと剣を擬した憲兵の見張りだけでは足りなく、職場々々の大切な部門には憲兵に職工服を着せて入り混らせていたという報告がされた。そこの細胞が最近検挙されたが、それは知らずに「職工の服を着た憲兵」に働きかけたゝめだった。そういう「職工」はワザと表面は意識ある様子を見せるので、危険この上もなかった。倉田工業は本来の軍器工場ではないので、まだ憲兵までにはきていないが、事態がもう少し進むと、そこまで行き兼ねないことが考えられる。



 時計を見ると未《ま》だ九時だった。それで少し雑談をすることにし、私たちは身体を横にして長くなった。私は伊藤の鏡台を見て、それが笠原の鏡台よりもなかなか立派で、黄色や赤や緑色のお白粉《しろい》まで揃《そろ》っているので、
「オヤ/\!」
と云《い》った。
 伊藤はそれと気付いて、
「嫌《いや》な人!」
と、立ってきた。
「伊藤は赤、青、黄と手をかえ、品をかえて、夜な夜な凄腕《すごうで》をふるうんだ。」
と須山が笑った。
「そら、そこに三越とか松坂屋の包紙が沢山あるだろう。献上品なんだよ。幸福な御身分さ!」
 工場で一寸《ちょっと》眼につく綺麗《きれい》な女工だと、大抵監督のオヤジから、係の責任者から、仲間の男工から買物をしてもらったり、松坂屋に連れて行ってもらったり、一緒に「しるこ屋」に行っておごってもらったりする。伊藤は見込のありそうな平職工だと誘われるまゝに出掛けて行ったし、自分からも勿論《もちろん》誘うようにしていた。それで彼女は工場には綺麗に顔を作って行った。然しそれは男工の場合も同じで、小ざッぱりした身装《みなり》と少しキリリとした顔をしていると、女工たちから須山の所謂《いわゆる》「直接\且《か》つ具体的に」附きまとわれた。
「ど
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