争われない事実
小林多喜二

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)吃驚《びっくり》した

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)たゞれ[#「たゞれ」に傍点]て

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)涙をポロ/\出しながら
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 誰よりも一番親孝行で、一番おとなしくて、何時でも学校のよく出来た健吉がこの世の中で一番恐ろしいことをやったという――だが、どうしても母親には納得がいかなかった。見廻りの途中、時々寄っては話し込んで行く赫ら顔の人の好い駐在所の旦那が、――「世の中には恐ろしい人殺しというものがある、詐偽というものもある、強盗というものもある。然し何が恐ろしいたって、この日本の国をひッくり返そうとする位おそろしいものがないんだ」と云った。
 矢張り東京へ出してやったのが悪かった、と母親は思った。何時でも眼やに[#「やに」に傍点]の出る片方の眼は、何日も何日も寝ないために赤くたゞれ[#「たゞれ」に傍点]て、何んでもなくても独りで涙がポロポロ出るようになった。
 角《かど》屋の大きな荒物屋に手伝いに行
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