れでも帰るときには何べんも何べんもお辞儀した。――お安は長い間その人から色々と話をきいていた。
母親はワザ/\東京まで出てきて、到々自分の息子に会わずに帰って行った。
「お安や、健はどうしてた……?」
汽車の中で、母親は恐ろしいものに触れるようにビクビクしながらきいた。
「何んぼ働いても食えない村より、あこ[#「あこ」に傍点]はウンと楽だって、笑っていたよ。――帰るときまで、お母アにたッしゃ[#「たッしゃ」に傍点]でいてけろと……」
母親はたった一言も聞き洩さないように聞いていた。――それから二人は人前もはゞからずに泣出してしまった。
*
それから半年程して、救援会の女の人が、田舎から鉛筆書きの手紙を受取った――それはお安が書いた手紙だった。
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あなたさまのお話、いまになるとヨウ分りました。こちらミンナたッしゃ[#「たッしゃ」に傍点]です。あれからこゝでコサクそうぎ[#「コサクそうぎ」に傍点]がおこりましたよ。私もやってます。あなたさまのお話わすれません。兄さんのことはクレグレもおたのみします。母はまだキョウサントウと云えませんよ。まだ
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