て入念な――“Eternal Prostitution”“Periodical Prostitution”“Five yen a time”というような言葉までできていた。彼はその事について、恵子にたずねた。恵子は――「そんなことでしたら、誰がなんと言おうと私を信じてもらっててもいいの!」と言った。恵子が淫売で拘留されたことがあるとか、家の裏に抜穴があるとか、もっと詳《くわ》しいことが噂立った。龍介はイライラしてきた。恵子を信じていても、やはりそんなことがいろいろに意識のうちに入ってきて、不快だった。しかしそれと同時に、彼は恵子をすっかり自分のものにしたい気持を感じだしてきた。しつこい強さできた。龍介は危い自分を意識したが、だめだった。彼の気持はずうと前に行ってしまっていた。彼はそのことを打ち明けるのに、市から汽車に乗って三十分ほどで行けるZの海岸にしようと考えた。その海岸は眼路《めじ》もはるかなといっていいほど砂丘が広々と波打っていた。よく牛が紐《ひも》のような尻尾《しっぽ》で背のあぶを追いながら草を食っていた。彼はそこ以外ではいけないと思った。彼はそこでのことをいろいろに想像した。
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