い電燈で、降ってくる雪片が、ハッキリ一つ一つ見えた。風がなかったので、その一つ一つが、いかにものんきに、フラフラ音もさせずに降っていた。活動常設館の前に来たとき入口のボックスに青い事務服を着た札売《ふだうり》の女が往来をぼんやり見ていた。龍介はちょっと活動写真はどうだろうと思った。が、初めの五分も見れば、それがどういうプロセスで、どうなってゆくか、ということがすぐ見透《みえす》く写真ばかりでは救われないと思った。しかし今ここに来ているちょっと評判のいい最後のだけ見たい気になった。戻って入ってしまうか、「入ってさえしまえば」こんな気持にきまり[#「きまり」に傍点]がつく、そう思った。が、そんなことを意識してする自分が、とうとう惨めに考えられた。彼はよした。
龍介は賑やかな十字街を横切った。その時前からくる二人をフト見た。それは最近細君を貰った銀行の同僚だった。彼は二人から遠ざかるように少し斜めに歩いた。相手は彼を知らないで通り過ぎた。ちょっと行ってから彼は振りかえってみた。二人は肩を並べて歩いてゆく。やってやがると思った。が振りかえった自分に赤くなった。
図書館は公園の中にあった。龍
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