くつだ?」
「――年?」眼にちょっとしたしな[#「しな」に傍点]を作って彼を見た。
「うん」
「……十七」
「考えて言えァだめだ」
「本当よ。――十七」
「そうか……章魚がうまいか?」
「…………」返事をしないで女が笑った。
「いつから?……」
「十五から」
「十五?――」
 龍介は酒をついでやった。一本の方はもうなくなった。彼は女の目の前で銚子を振ってみせた。女はちょっと肩を縮めて、黙って笑った。
「まだ、あるんだ。安心せ」
 彼はもう一本の方を手にもって、「さあ、注いでやるぞ」と言った。そして、「どうしてこんな所へ来たんだ?」ときいた。
 女はちょっとだまった。火鉢のふち[#「ふち」に傍点]に両肱《りょうひじ》を立てて、ちょうどさかずき[#「さかずき」に傍点]を目の高さに持っていた女は、口元まで持っていったのをやめて、じっとそれに見入った。両方とも少しだまった。と、女は顔をあげで、
「そんなこときいて何するの?」ときいた。そして、
「イヤ! 私いや!」と言って、頭を振った。
「ききたいんだ」
 間。
「どうして?」
「どうしでもさ。金のためにか、すきでか……」
「私言わないもの……
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