おいてしまいにあかんべい[#「あかんべい」に傍点]、だ! 龍介はこの事以来自分に疲れてきた。すべて自信がもてない。ものをハッキリ決めれない、なぜか、そうきめるとそれが変になってしまうように思われた。
 ……龍介は今暗がりへ身を寄せたとき、犬より劣っている自分を意識した。

     三

 龍介は歩きながら、やはり友だちがほしくなるのを感じた。孤《ひと》りでいるのが恐《こわ》いのだ。過去が遠慮もなく眼をさますからだった。それは龍介にとって亡霊だった。――酒でもよかった。が、酒では酔えない彼はかえって惨めになるのを知っていた。龍介は途中、Sのところへ寄ってみようと思った。
 雪はまだ降っていた。それでも、その通りの両側には夜店が五、六軒出ていた。そしてその夜店と夜店の間々に雪が降っているので立ち寄るものはすくなかった。が二、三カ所|人集《ひとだか》りがあった。その輪のどれからか八木節《やぎぶし》の「アッア――ア――」と尻上りに勘《かん》高くひびく唄が太鼓といっしょに聞えてきた。乗合自動車がグジョグジョな雪をはね飛ばしていった。後に「チャップリン黄金狂時代、近日上映」という広告が貼《は》っ
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