の前の晩、彼はこの前のようなことがないように、と思い、カフェーへ出かけてみた。女は彼にちょうど手紙を出したところだ、と言い、きゅうにまた明日用事ができて行けなくなったと言った。そして本当に気の毒そうな顔をした。彼はまたむりをして作った次の日のための金をそこで使ってしまった。帰ったのが遅かった。
二、三日して龍介はまたカフェーへ行った。そして今度の日曜にはぜひ行こうということにきめて帰ってきた。土曜の暮れ方から雨空になった。朝眼をさますと土砂降《どしゃぶ》りだった。龍介はがっかりして蒲団《ふとん》にもぐりこんでしまった。変な夢ばかりを見て、昼ごろに眼をさました。これで三度だめになった。そしてこういうことが、彼の気持をもズルズルにさした。彼はその間ちっとも落ちつけず、何んにも仕事ができなかった。しかし何回ものこういうことが、かえって彼の恵子に対する気持を変にジリジリと強めていった。彼はまた女のところへ出かけていった。女も「今度こそ本当にねえ!」と言った。
約束の日まで一週間ぐらいあった。その間雨ばかり降った。雪がまじったりした。龍介は天気ばかり気になり夕刊の天気予報で、機嫌よくなったり
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