れを工場内の眼のつく所にワザと捨てゝ置いたり、小規模だが、バラ撒いたりするようになっていた。
 ――組合のものが作ってるんだッて、工場長は云ってる。「ニュース」の No.16 かに、専務の一カ年間の精細な収入と家庭生活と一年間の芸者の線香代と妾のことを載せたアレ、とても人気を呼んで、とう/\グル/\廻ってしまった。あれで、女工のうちでは、これが本当なら、専務さんの「ナッパ服」に今迄だまされていたッて、泣いた奴が沢山いたそうだ。噂のような話だけど――
 二人は声を出して笑った。
 ――何んしろ細大|洩《もら》さずだから、彼奴等も浮かぶ瀬が無いだろう。
 外は人通りがまばらになっていた。二人は用心して歩いた。
 森本の家の近くの坂に来たとき、河田が内ポケットから新聞の包みを出した。
 ――これ明日まで読んでおいてくれ。そして読んでしまったら、すぐ焼いてくれ。
 森本はそれを受取った。
 ――じゃ、明日九時頃君のところへ行くから、家にいてくれ。
 そう云って、河田が暗い小径を曲がって行った。
 ――彼はその足音を聞いて、立っていた。
 次の日、森本は河田から「共産党」加入の勧誘をうけた。


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