いる河田は一分もそういう彼を誰にも見せたことがなかったのだ。
――工場はまだ大丈夫かい。
と河田がきいた。彼は何時でも森本の「顔」のことを心配していた。
――少ォしは。長い間だから。
――ん、少ォしでも悪いな。
――会社の笠原さんの話だと、最近バカに工場長のところへ警察の高等係がきて、何か話してるそうだ。
鍋焼の熱いテンプラを舌の上で、あちこちやっていた河田が、眉毛を急にピクッと動かした。
――工場長が時々顔の知らない人をつれて、工場のなかを案内して歩くけれども、ひょっとすると、それが高等係かも知れない。それに君ちゃんの話だと、職工のなかには皆の動きを一々報告している、会社に買収された奴がいるそうだ。佐伯たちの手下と知らないで、鉢合せでもしたら事だからな!
――……※[#感嘆符疑問符、1−8−78] 注意しなけれアならないな。
――「ニュース」は矢張り分ってるんだ。参ってるらしい。何処で作って、どんな経路で入ってくるかを躍起になってるらしい。
――フン!
「ニュース」は初め厳密に手渡しされていた。然し、組織の根が広まり、それが可なりしっかりしたものになってくると、そ
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