通りはまだあった。自動車のヘッドライトが時々河田の顔を半分だけ切って――カーヴを曲がって行った。
 ――献身的と云っても、一生を捧げると云う位の気だな。
 と云った。
 足元で春に近いザラメのような雪がサラッ、サラッとなった。
 ――勿論俺だちの仕事は遊び半分には出来ることでもないし、それに俺だちのようなものが、後から後からと何度も出て来て、折り重なって、ようやくもの[#「もの」に傍点]になるというようなものだから、分りきった事だが……。
 森本は今更あらたまった云い方だ、と思った。
 ――「ニュース」だって半年のうちに、とにかくこの位になったという事は、一糸乱れない「組織」の力だったと思うんだ。――でねえ、俺だちの目的だな、社会主義の国を建てるということだ。そのためには鉄のような「組織」とそれを動かし、死守していく所謂その献身的な同志の力が要るわけだ……。
 又そこで河田らしくなく言葉を切った。
 ――分るな?
 ――分ってるよ。変だな、今更……。
 彼がそう云うと、河田は口の中だけで「ムフ」と笑ったようだった。
 ――その鉄のような組織というのは、工場細胞を通して工場労働者にしっか
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