て「社員」になろうと、一生懸命に働いたことがあった。然しいくら働いても、社員にしてくれないので、彼は十九頃からやけ[#「やけ」に傍点]を起していた。殊に、そこでは人間が機械を使うのではなくて、機械が何時でも人間をへばりつかせていた。人間様が機械にギュッ/\させられてたまるもんかい、彼はだらしなく、懐手《ふところで》をしている方がましだと思っていた。――猫を何匹も飼っている婆の顔がだんだん猫に似てくるが、それと同じように、今にお前たちは機械に似てくるぞ、と森本はしゃべって歩いた。工場の轟音のなかで話している彼等は、金剛砥《グラインダー》が鉄物に火花を散らすような声でしかもの[#「もの」に傍点]が云えない。彼等の腰は機械の据りのようなねばりと適確さを持っている。彼等の厚い無表情は鉄のひやゝかな黒さに似ている。彼等の指の節々はたがね[#「たがね」に傍点]の堅さを持っている。彼らはそして汽槌《スチーム・ハンマー》のような意志を持っていた。――この労働者の首ッ根にベルトがかゝれば、彼等は旋盤がシャフトを削り、ボール盤が穴を穿《うが》ち、セーパーやステキ盤が鉄を平面にけずり、ミーリングが歯車を仕上
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