を買ったり、女の話しかしない金属工でしかなかった。――然し、今度彼がその変った意識で以前のその仲間に話しかけると、不思議なことには、その同じ猥談《わいだん》組の仲間とは思われない答を持ってやってきた。それを見ても、今迄誰も彼等のうちにある意識にキッカケを与えなかったことが分る。彼等は皆自分の生活には細かい計算[#「細かい計算」に傍点]を持っていた。一日一銭のこと、会社の消費組合で買うするめ[#「するめ」に傍点]の値が五厘高いというので、大きな喧嘩になるほどの議論をするのだ。
月々の掛金や保険医の不親切と冷淡さで、彼等は「健康保険法」にはうんざりしていた。そればかりか、「健保」が施行されてから、会社は職工の私傷のときには三分の二、公傷のときには全額の負担をしなければならないのをウマク逃れてしまっていた。「健保は当然会社の全負担にさせなければならない性質《たち》のもんだ。」――誰にも教えられずに、職工はそう云っていた。
「工場委員会」も職工たちには「狸ごッこ」だとしか思われていない。「おとなしい」「我ン張りのない」職工を会社が勝手にきめて、お座なりに開くそんな「工場委員会」に少しも望みを
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