らゴルフへ行く専務の姿を見て、足をよどました。給仕にステッキのサックを背負わしていた。拍子に、中から出てきた佐伯と身体を打ち当てゝしまった。
 ――失敬ッ!
 ――ひょっとこ奴《め》!
 佐伯? 何んのために、こっちへやって来やがったんだ、――森本は臭い奴だと思った。
 ――何んだ、手前の眼カスベ[#「カスベ」に傍点]か鰈《かれい》か?
 ――何云ってるんだ。窓の外でも見ろ!
 佐伯はチラッとそれを見ると、イヤな顔をした。
 ――あの格好を見れ。「昭和の花咲爺」でないか。ゴルフってあんな恰好しないと出来ないんか。
 ――フン、どうかな……。
 あやふやな受け方をした。佐伯には痛いところだった。
 ――実はね、安部磯雄が今度遊説に来るんだよ。……それを機会に、市内の講演が終ってから、一時間ほど工場でもやってもらうことにしたいと思ってるんだ。これは専務も賛成なんだが……。
 ――主催は? ……君等が呼ぶのか?
 ――冗談じゃない、専務だよ。
 ――専務が※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
 森本が薄く笑った。
 ――へえ、馬鹿に大胆なことをするもんだな。
 ――偉いもんだよ。
 佐伯は森本
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