に云える。嘘《うそ》か本当かは君の方が分ってるだろうよ……。
――…………。
――おかしい云い方をするが、僕はそのことが分った時、喜んでいゝか、悲しんでいゝか分らなかった。
――入っていないときいて、僕等が喜ぶのは勝手だと君は云いたいだろう。それならそれでいい。僕等はどうせ、人に決して喜ばれることの出来ない職業をしているのだから。然し「同志」というものゝ気持は、僕等からはとても覗《うかが》い知ることの出来ないほど、深い信頼の情ではないかと思うんだ。だが、君はそれに[#「それに」に傍点]裏切られているのだ。それが分ったとき、僕は君に対して何んと云っていゝか分らない、淋しい、暗い気持にされたのだ。
――勝手なことを云え!
胸がまくれ上がって、のどへ来た。それを一思いにハキ出さなければならなかった。で、怒鳴った。――彼は胸一杯の涙をこらえた。
特高主任は鉛筆をもてあそびながら、彼の顔をじッと見た。一寸だまった。
――そればかりではないんだ。紛議の交渉とか争議費用として受取った金の分配などで、君がどの位誤魔化されているか知れない。――河田たちが、そんな金で遊んでいる証拠がちァんと
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