彼も何気ない様子を装って、その男と同じ方へ歩き出した。彼から口を切った。
――山[#「山」に傍点]田です。
すると、背広の男は直ぐ
――川[#「川」に傍点]村。
と云った。
「山」と「川」が合った。二人は人通りのあまり多くない河|端《ぶち》を下りて行った。少し行くと、男が、
――何処か休む処がないですか。
と云った。
――そうですね。
河田は両側を探して歩いた。そして小さいレストランの二階へ上った。
テーブルに坐ると、男がポケットから三銭切手を出した。その 3sn の 3 がインクで消されていた。河田もさっきの三銭切手を出して、その sn の方を消した。二人は完全に「同志」であることが分った。――男は中央から派遣されてきた党のオルガナイザーだった。
河田はY地方の情勢や党員獲得数などを、そこで話し出した。
八
鈴木は少しでも長く河田や石川などゝいることに苦痛を覚えた。彼は心が少しも楽しまないのだ。誇張なしに、彼は自分があらゆるものから隔てられている事を感じていた。そしてその感情に何時でも負かされていた。――およそ、プロレタリヤ的でない! 然
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