とだ。それは、さっき云ったあの華々しい運動をやっていた先輩たちが、非合法運動なのに、今迄の癖がとれず、時々金魚のように水面へ身体をプク/\浮かばしていたところから来てるんだ。工場に根をもった、沈んだ仕事[#「沈んだ仕事」に傍点]をしていなかったからだ。――実際、僕たちの仕事が、工場の中へ、中へと沈んで行って、見えなくなってしまわなければならなかったのに、それを演壇の上にかけのぼって、諸君は! とがな[#「がな」に傍点]ってみたり、ビラを持って街を走り廻わることだと、勘ちがいをしてしまったのだ。――日本の運動もこゝまで分ってきた…………。
――ところが、本当は仲々分らないんだよ。恐ろしいもんだ。
石川が河田の言葉をとった。銀紙のコップをバットの空箱に立てながら、何時ものハッキリしない笑顔を人なつッこく森本に向けた。
――ボロ船の舵《かじ》のようなもので、ハンドルを廻わしてから一時間もして、ようやくきい[#「きい」に傍点]てくるッてところだ。今迄の誤ッてた運動の実践上の惰勢もあるし、これは何んてたって強い[#「これは何んてたって強い」に傍点]。それに工場の方は仕事はジミだし、又実際ジ
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