分にはどん底の生活をしている可哀相な女がいる。それが自分のたった一人の女だ、と話したことがあった。
 ――鈴木さんに限らず、男ッて……。
 お君がそう云って、――何時もの癖で、いたずらゝしく、クスッと笑った。
 ――あんたゞけはそれでも少ォし別よ……。
 ――それはね。
 森本は自分でも変なハズミから、言葉をすべらした。然し、何んだか、今云わなければ、それがそれッ切りのような気がした。彼は恐ろしく真面目な、低い声を出した。
 ――それはね、君ちゃんを本当に……愛してるからさ!
「ま、おかしい! 何云ってるのさ、この男が!」――あの明るい、無遠慮に大きい笑い声が、この我ながら甘ッたるい、言葉を吹き飛ばしてしまうだろう、森本は云ってしまった瞬間、それに気付いて、カアッと赤くなった。――が、お君はフイ[#「フイ」に傍点]に黙った。二人はそれっきり何も云わないで、撥《ばつ》の悪い気持のまゝ歩いて行った。
 橋の上へ来たとき、彼が気付いた。――彼はお君を一寸先きに行って貰って、服のポケットを全部調べた。内ポケットの中から、四つに折った、折目がボロ/\になった薄いパンフレットが出た。河田から貰った
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