職工の自分に対する気持を飛んでもなく誤算していたことに気付いた。又、こんな形でやって来られるとは思いもよらなかった。誰か後にいる! 然し「Yのフォード」はこうも脆《もろ》いものか。労働者って不思議なものだ。――してやられたのだ! そして、もう遅かった!
 ――じゃ、二三日中……。
 専務は自分でもその惨めな弱々しさに気付いた。
 ――二三日中! 然し「金菱」は二三日待ってくれるわけはありません。
 ――……。
 森本は勝敗を一挙に決してしまわなければならない最後の「詰め手」をさしているのだ!
 ――……。
 五百の労働者の耳は、専務のたった一つの言葉を待っている。専務の味方をするものも、飛んでもない会合に出てしまったと思う職工たちも、こゝへくるともう同じだった。五百人の労働者はたった一つの呼吸しかしていなかった。
 ――………………。
 誰か一番後で、カタッと靴の踵《かかと》を下した音が聞えた。
 ――明日の時間後まで……。
 波のようなどよめきが起ったと思った。次の瞬間には、食堂をうちから跳ね上げるような轟音になって「万歳」が叫ばれた。
 彼はたゞ、眼に涙を一杯ためて、手をガッシリと
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