人近くの職工のこもったどよめきが、足踏みや椅子をずらす音と一しょになり、重い圧力のように押しかぶさって来た。手筈をきめて置いた激励の演説がそれを太くつらぬいた。離れていると、その一つ一つの言葉が余韻を引きずるように、ハッキリ職工たちをとらえている。潮なり[#「なり」に傍点]に似た群衆の勢いが――どよめきが分った。それによって、何より会社[#「会社」に傍点]主義で集っている職工たちを、その演説で引きずり込まなければならないのだ。――彼は嘗《か》つて覚えたことのない血の激しい流れを感じた。これからやってのけなければならない、大きな任務を考えると、彼はガタ/\と身体がふるえ出した。グイと後首筋に力を入れ、顎をひいてもとまらなかった。彼は内心あやふやな恐怖さえ感じていた。こんな時に、河田が側にいてくれたら、たゞいてだけくれても、彼は押し強くやれるのだが、と思った。
知った顔が振り返って、笑った。――しっかりやってくれ、笑顔がそう云っていた。
食堂の中はスチィムの熱気と人いきれで、ムンとむれ返っていた。油臭いナッパ服が肩と肩、顔と顔をならべ、腰をかけたり、立ったり――それが或いは腕を胸に組み
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