がもの[#「もの」に傍点]を云って書かせた、自分の子供のたどたどしい手紙や、手拭、歯磨、楊子《ようじ》、チリ紙、着物、それ等の合せ目から、思いがけなく妻の手紙が、重さでキチンと平べったくなって、出てきた。彼等はその何処からでも、陸にある「自家《うち》」の匂いをかぎ取ろうとした。乳臭い子供の匂いや、妻のムッとくる膚の臭《にお》いを探がした。
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………………………………
おそそ[#「おそそ」に傍点]にかつれて困っている、
三銭切手でとどくなら、
おそそ[#「おそそ」に傍点]罐詰で送りたい――かッ!
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やけに大声で「ストトン節」をどなった。
何んにも送って来なかった船員や漁夫は、ズボンのポケットに棒のように腕をつッこんで、歩き廻っていた。
「お前の居ない間《ま》に、男でも引ッ張り込んでるだんべよ」
皆にからかわれた。
薄暗い隅《すみ》に顔を向けて、皆ガヤガヤ騒いでいるのをよそ[#「よそ」に傍点]に、何度も指を折り直して、考え込んでいるのがいた。――中積船で来た手紙で、子供の死んだ報知《しらせ》を読んだのだった。二カ月も前に死んでいた子供
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