の、それを知らずに「今まで」いた。手紙には無線を頼む金もなかったので、と書かれていた。漁夫が※[#感嘆符疑問符、1−8−78] と思われる程、その男は何時までもムッつりしていた。
然し、それと丁度反対のがあった。ふやけた蛸《たこ》の子のような赤子の写真が入っていたりした。
「これがか※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」と、頓狂《とんきょう》な声で笑い出してしまう。
それから「どうだ、これが産れたんだとよ」と云ってワザワザ一人々々に、ニコニコしながら見せて歩いた。
荷物の中には何んでもないことで、然し妻でなかったら、やはり気付かないような細かい心配りの分るものが入っていた。そんな時は、急に誰でも、バタバタと心が「あやしく」騒ぎ立った。――そして、ただ、無性に帰りたかった。
中積船には、会社で派遣した活動写真隊が乗り込んできていた。出来上っただけの罐詰を中積船に移してしまった晩、船で活動写真を映すことになった。
平べったい鳥打ちを少し横めにかぶり、蝶《ちょう》ネクタイをして、太いズボンをはいた、若い同じような恰好《かっこう》の男が二、三人トランクを重そうに持って、船へやってきた。
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