えているのもいた。
「おい、端を持ってけれ」
 褌《ふんどし》の片端を持ってもらって、広げながら虱をとった。
 漁夫は虱を口に入れて、前歯で、音をさせてつぶしたり、両方の拇指《おやゆび》の爪で、爪が真赤になるまでつぶした。子供が汚い手をすぐ着物に拭《ふ》くように、袢天《はんてん》の裾《すそ》にぬぐうと、又始めた。――それでも然し眠れない。何処から出てくるか、夜通し虱と蚤《のみ》と南京虫《ナンキンむし》に責められる。いくらどうしても退治し尽されなかった。薄暗く、ジメジメしている棚に立っていると、すぐモゾモゾと何十匹もの蚤が脛《すね》を這《は》い上ってきた。終《しま》いには、自分の体の何処かが腐ってでもいないのか、と思った。蛆《うじ》や蠅に取りつかれている腐爛《ふらん》した「死体」ではないか、そんな不気味さを感じた。
 お湯には、初め一日置きに入れた。身体が生ッ臭くよごれて仕様がなかった。然し一週間もすると、三日置きになり、一カ月位経つと、一週間一度。そしてとうとう月二回にされてしまった。水の濫費《らんぴ》を防ぐためだった。然し、船長や監督は毎日お湯に入った。それは濫費にはならなかった。(
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