ってるべよ」
「…………」何か云いたげな、然しグイとつまったまま、皆だまった。
「こ、こ、殺される前に、こっちから殺してやるんだ」どもりがブッきら棒に投げつけた。
 トブーン、ドブーンとゆるく腹《サイド》に波が当っている。上甲板の方で、何処かのパイプからスティムがもれ[#「もれ」に傍点]ているらしく、シー、シ――ン、シ――ンという鉄瓶《てつびん》のたぎるような、柔かい音が絶えずしていた。

 寝る前に、漁夫達は垢《あか》でスルメのようにガバガバになったメリヤスやネルのシャツを脱いで、ストーヴの上に広げた。囲んでいるもの達が、炬燵《こたつ》のように各※[#二の字点、1−2−22]その端をもって、熱くしてからバタバタとほろっ[#「ほろっ」に傍点]た。ストーヴの上に虱《しらみ》や南京虫が落ちると、プツン、プツンと、音をたてて、人が焼ける時のような生ッ臭い臭《にお》いがした。熱くなると、居たまらなくなった虱が、シャツの縫目から、細かい沢山の足を夢中に動かして、出て来る。つまみ上げると、皮膚の脂肪《あぶら》ッぽいコロッとした身体の感触がゾッときた。かまきり虫のような、無気味な頭が、それと分る程肥
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