ろう、そう思って、津軽海峡を渡って、雪の深い北海道へやってきたのだった。――蟹工船にはそういう、自分の土地を「他人」に追い立てられて来たものが沢山いた。
 積取人夫は蟹工船の漁夫と似ていた。監視付きの小樽《おたる》の下宿屋にゴロゴロしていると、樺太《かばふと》や北海道の奥地へ船で引きずられて行く。足を「一寸《いっすん》」すべらすと、ゴンゴンゴンとうなりながら、地響をたてて転落してくる角材の下になって、南部センベイ[#「南部センベイ」に傍点]よりも薄くされた。ガラガラとウインチで船に積まれて行く、水で皮がペロペロになっている材木に、拍子を食って、一なぐり[#「一なぐり」に傍点]されると、頭のつぶれた人間は、蚤《のみ》の子よりも軽く、海の中へたたき込まれた。
 ――内地では、何時までも、黙って「殺されていない」労働者が一かたまりに固って、資本家へ反抗している。然し「殖民地」の労働者は、そういう事情から完全に「遮断《しゃだん》」されていた。
 苦しくて、苦しくてたまらない。然し転《ころ》んで歩けば歩く程、雪ダルマのように苦しみを身体に背負い込んだ。
「どうなるかな……?」
「殺されるのさ、分
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