一家は次の春には餓死することがあった。それは「事実」何度もあった。雪が溶けた頃になって、一里も離れている「隣りの人」がやってきて、始めてそれが分った。口の中から、半分|嚥《の》みかけている藁屑《わらくず》が出てきたりした。
 稀《ま》れに餓死から逃れ得ても、その荒ブ地を十年もかかって耕やし、ようやくこれで普通の畑になったと思える頃、実はそれにちアんと、「外の人」のものになるようになっていた。資本家は――高利貸、銀行、華族、大金持は、嘘《うそ》のような金を貸して置けば、(投げ捨てて置けば)荒地は、肥えた黒猫の毛並のように豊饒な土地になって、間違なく、自分のものになってきた。そんな事を真似て、濡手[#「濡手」に傍点]をきめこむ、目の鋭い人間も、又北海道に入り込んできた。――百姓は、あっちからも、こっちからも自分のものを噛《か》みとられて行った。そして終《しま》いには、彼等が内地でそうされたと同じように「小作人[#「小作人」に傍点]」にされてしまっていた。そうなって百姓は始めて気付いた。――「失敗《しま》った!」
 彼等は少しでも金を作って[#「金を作って」に傍点]、故里《ふるさと》の村に帰
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