裏で鋭い叫び声が起る。すると、人の肉が焼ける生ッ臭い匂いが流れてきた。
「やめた、やめた。――とても飯なんて、食えたもんじゃねえや」
箸を投げる。が、お互暗い顔で見合った。
脚気《かっけ》では何人も死んだ。無理に働かせるからだった。死んでも「暇がない」ので、そのまま何日も放って置かれた。裏へ出る暗がりに、無雑作にかけてあるムシロの裾《すそ》から、子供のように妙に小さくなった、黄黒く、艶《つや》のない両足だけが見えた。
「顔に一杯|蠅《はえ》がたかっているんだ。側を通ったとき、一度にワアーンと飛び上るんでないか!」
額を手でトントン[#「トントン」に傍点]打ちながら入ってくると、そう云う者があった。
皆は朝は暗いうちに仕事場に出された。そして鶴嘴《つるはし》のさきがチラッ、チラッと青白く光って、手元が見えなくなるまで、働かされた。近所に建っている監獄で働いている囚人の方を、皆はかえって羨《うらやま》しがった。殊《こと》に朝鮮人は親方、棒頭《ぼうがしら》からも、同じ仲間の土方(日本人の)からも「踏んづける」ような待遇をうけていた。
其処から四、五里も離れた村に駐在している巡査が、
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