それでも時々手帖をもって、取調べにテクテクやってくる。夕方までいたり、泊りこんだりした。然し土方達の方へは一度も顔を見せなかった。そして、帰りには真赤な顔をして、歩きながら道の真中を、消防の真似《まね》でもしているように、小便を四方にジャジャやりながら、分らない独言を云って帰って行った。
北海道では、字義通り、どの鉄道の枕木もそれはそのまま一本々々労働者の青むくれた「死骸」だった。築港の埋立には、脚気の土工が生きたまま「人柱[#「人柱」に傍点]」のように埋められた。――北海道の、そういう労働者を「タコ[#「タコ」に傍点](蛸)」と云っている。蛸は自分が生きて行くためには自分の手足をも食ってしまう。これこそ、全くそっくりではないか! そこでは誰をも憚《はばか》らない「原始的」な搾取が出来た。「儲《もう》け」がゴゾリ、ゴゾリ掘りかえってきた。しかも、そして、その事を巧みに「国家的[#「国家的」に傍点]」富源の開発[#「富源の開発」に傍点]ということに結びつけて、マンマと合理化していた。抜目がなかった。「国家」のために、労働者は「腹が減り」「タタき殺されて」行った。
「其処《あこ》から生き
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