煙草|無《ね》えか?」
「無え……」
「無えか?……」
「なかったな」
「糞」
「おい、ウイスキーをこっちにも廻せよ、な」
相手は角瓶《かくびん》を逆かさに振ってみせた。
「おッと、勿体《もったい》ねえことするなよ」
「ハハハハハハハ」
「飛んでもねえ所さ、然し来たもんだな、俺も……」その漁夫は芝浦の工場にいたことがあった。そこの話がそれから出た。それは北海道の労働者達には「工場[#「工場」に傍点]」だとは想像もつかない「立派な処[#「立派な処」に傍点]」に思われた。「ここの百に一つ位のことがあったって、あっちじゃストライキだよ」と云った。
その事から――そのキッかけで、お互の今までしてきた色々のことが、ひょいひょいと話に出てきた。「国道開たく工事」「灌漑《かんがい》工事」「鉄道敷設」「築港埋立」「新鉱発掘」「開墾」「積取人夫」「鰊《にしん》取り」――殆《ほと》んど、そのどれかを皆はしてきていた。
――内地では、労働者が「横平《おうへい》」になって無理がきかなくなり、市場も大体開拓されつくして、行詰ってくると、資本家は「北海道・樺太へ!」鉤爪《かぎづめ》をのばした。其処《そこ》で
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