血の滲《にじ》むような日が滅茶苦茶に続く。同じ日のうちに、今までより五、六割も殖《ふ》えていた。然し五日、六日になると、両方とも気抜けしたように、仕事の高がズシ、ズシ減って行った。仕事をしながら、時々ガクリと頭を前に落した。監督はものも云わないで、なぐりつけた。不意を喰《く》らって、彼等は自分でも思いがけない悲鳴を「キャッ!」とあげた。――皆は敵《かたき》同志か、言葉を忘れてしまった人のように、お互にだまりこくって働いた。もの[#「もの」に傍点]を云うだけのぜいたくな「余分」さえ残っていなかった。
 監督は然し、今度は、勝った組に「賞品」を出すことを始めた。燻《くすぶ》りかえっていた木が、又燃え出した。
「他愛のないものさ」監督は、船長室で、船長を相手にビールを飲んでいた。
 船長は肥えた女のように、手の甲にえくぼ[#「えくぼ」に傍点]が出ていた。器用に金口《きんぐち》をトントンとテーブルにたたいて、分らない笑顔《えがお》で答えた。――船長は、監督が何時でも自分の眼の前で、マヤマヤ邪魔をしているようで、たまらなく不快だった。漁夫達がワッと事を起して、此奴をカムサツカの海へたたき落すよう
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