なことでもないかな、そんな事を考えていた。
 監督は「賞品」の外に、逆に、一番働きの少いものに「焼き」を入れることを貼紙《はりがみ》した。鉄棒を真赤に焼いて、身体にそのまま当てることだった。彼等は何処まで逃げても離れない、まるで自分自身の影のような「焼き」に始終追いかけられて、仕事をした。仕事が尻上《しりあが》りに、目盛りをあげて行った。
 人間の身体には、どの位の限度があるか、然しそれは当の本人よりも監督の方が、よく知っていた。――仕事が終って、丸太棒のように棚《たな》の中に横倒れに倒れると、「期せずして」う、う――、うめいた。
 学生の一人は、小さい時は祖母に連れられて、お寺の薄暗いお堂の中で見たことのある「地獄」の絵が、そのままこうであることを思い出した。それは、小さい時の彼には、丁度うわばみ[#「うわばみ」に傍点]のような動物が、沼地ににょろ[#「にょろ」に傍点]、にょろ[#「にょろ」に傍点]と這《は》っているのを思わせた。それとそっくり同じだった。――過労がかえって皆を眠らせない。夜中過ぎて、突然、硝子《ガラス》の表に思いッ切り疵《きず》を付けるような無気味な歯ぎしりが起った
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