をキャラメルに換えて、ポケットに二つ三つ入れると、ハッチを出て行った。
便所臭い、漬物樽《つけものだる》の積まさっている物置を、コックが開けると、薄暗い、ムッとする中から、いきなり横ッ面でもなぐられるように、怒鳴られた。
「閉めろッ! 今、入ってくると、この野郎、タタキ殺すぞ!」
× × ×
無電係が、他船の交換している無電を聞いて、その収獲を一々監督に知らせた。それで見ると、本船がどうしても負けているらしい事が分ってきた。監督がアセリ[#「アセリ」に傍点]出した。すると、テキ[#「テキ」に傍点]面にそのことが何倍かの強さになって、漁夫や雑夫に打ち当ってきた。――何時《いつ》でも、そして、何んでもドン詰りの引受所が「彼等」だけだった。監督や雑夫長はわざと「船員」と「漁夫、雑夫」との間に、仕事の上で競争させるように仕組んだ。
同じ蟹《かに》つぶしをしていながら、「船員に負けた」となると、(自分の儲《もう》けになる仕事でもないのに)漁夫や雑夫は「何に糞ッ!」という気になる。監督は「手を打って」喜んだ。今日勝った、今日負けた、今度こそ負けるもんか――
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