の間聞えていた。然し、そのまま動かなくなった。――その瞬間だった。柔かい靄の中に、雑夫の二本の足がローソクのように浮かんだ。下半分が、すっかり裸になってしまっている。それから雑夫はそのまま蹲《しゃが》んだ。と、その上に、漁夫が蟇《がま》のように覆《おお》いかぶさった。それだけが「眼の前」で、短かい――グッと咽喉《のど》につかえる瞬間に行われた。見ていた漁夫は、思わず眼をそらした。酔わされたような、撲《な》ぐられたような興奮をワクワクと感じた。
漁夫達はだんだん内からむくれ上ってくる性慾に悩まされ出してきていた。四カ月も、五カ月も不自然に、この頑丈《がんじょう》な男達が「女」から離されていた。――函館で買った女の話や、露骨な女の陰部の話が、夜になると、きまって出た。一枚の春画がボサボサに紙に毛が立つほど、何度も、何度もグルグル廻された。
[#ここから2字下げ]
…………
床とれの、
こちら向けえの、
口すえの、
足をからめの、
気をやれの、
ホンに、つとめ[#「つとめ」に傍点]はつらいもの。
[#ここで字下げ終わり]
誰か歌った。すると、一度で、その歌が海綿にでも吸われるように、皆
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