の子供は、身体はええ[#「ええ」に傍点]べものな」
母親同志だった。
「ん、まあ」
「俺どこのア、とても弱いんだ。どうすべかッて思うんだども、何んしろ……」
「それア何処でも、ね」
――二人の漁夫がハッチから甲板へ顔を出すと、ホッとした。不機嫌《ふきげん》に、急にだまり合ったまま雑夫の穴より、もっと船首の、梯形《ていけい》の自分達の「巣」に帰った。錨を上げたり、下したりする度に、コンクリート・ミキサの中に投げ込まれたように、皆は跳《は》ね上り、ぶッつかり合わなければならなかった。
薄暗い中で、漁夫は豚のようにゴロゴロしていた、それに豚小屋そっくりの、胸がすぐゲエと来そうな臭《にお》いがしていた。
「臭せえ、臭せえ」
「そよ、俺だちだもの。ええ加減、こったら腐りかけた臭いでもすべよ」
赤い臼《うす》のような頭をした漁夫が、一升|瓶《びん》そのままで、酒を端のかけた茶碗《ちゃわん》に注《つ》いで、鯣《するめ》をムシャムシャやりながら飲んでいた。その横に仰向けにひっくり返って、林檎を食いながら、表紙のボロボロした講談雑誌を見ているのがいた。
四人輪になって飲んでいたのに、まだ飲み足
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