ので、「糞」のような臭いも交っていた。
「こんだ親父《おど》抱いて寝てやるど」――漁夫がベラベラ笑った。
 薄暗い隅《すみ》の方で、袢天《はんてん》を着、股引《ももひき》をはいた、風呂敷を三角にかぶった女|出面《でめん》らしい母親が、林檎《りんご》の皮をむいて、棚に腹ん這《ば》いになっている子供に食わしてやっていた。子供の食うのを見ながら、自分では剥《む》いたぐるぐるの輪になった皮を食っている。何かしゃべったり、子供のそばの小さい風呂敷包みを何度も解いたり、直してやっていた。そういうのが七、八人もいた。誰も送って来てくれるもののいない内地から来た子供達は、時々そっちの方をぬすみ[#「ぬすみ」に傍点]見るように、見ていた。
 髪や身体がセメントの粉まみれになっている女が、キャラメルの箱から二粒位ずつ、その附近の子供達に分けてやりながら、
「うちの健吉と仲よく働いてやってけれよ、な」と云っていた。木の根のように不恰好《ぶかっこう》に大きいザラザラした手だった。
 子供に鼻をかんでやっているのや、手拭《てぬぐい》で顔をふいてやっているのや、ボソボソ何か云っているのや、あった。
「お前さんどこ
前へ 次へ
全140ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング